九州随一の名峰阿蘇山は、国内有数の観光地でもあります。
熊本市内と大分県を結ぶ国道57号線側から眺める姿がよく知られていますが、その裏側の高森町や南阿蘇村からの眺望は、まるで別のもの。
広々とした空の下、横に長く五岳が連なり、尖った稜線が印象的です。
その絶景をのどかな田園風景越しに堪能できるのが、南阿蘇村にある了廣寺です。
承応2(1653)年開基の了廣寺では、2018年5月に宿坊を開設しました。
一日一組、50㎡の客室は、ゆっくり過ぎゆく時間をただ伸びやかに過ごす場所。
おいしい水で名高い南阿蘇村ですから、寺から少し歩けば、地元の人達が「阿蘇で一番おいしい水」と言う竹崎水源もあり、それらを訪ねる散策も楽しみです。
訪れる人が楽しみにしている食事も、宿坊の大きな魅力。
地元で法事の後に出されるお斎(とき)をベースにした精進料理ですが、先代住職が近くの畑で丹精込めて育てている野菜を、坊守がコース仕立てで提供してくれます。
そのすべてが阿蘇の旬の味。訪れるたびに、異なる味と出合うのではないでしょうか。
食事で特筆すべき点がもう一つ、それがパン。
境内の一角にはパン工房が設けられ、なんと小林智征住職自ら、熊本県産小麦粉と南阿蘇の地下水を使って食パンを毎朝焼いているのです。
パンの種類は10種類ほどあり、きな粉やゴマ入り、あん入りなどのほか、米粉や全粒粉を使ったものもあります。
実はこれが、外国からのお客に「ビーガンパン」として人気だそう。
「うちは素朴なものしかありません。
でも、それが一番のもてなしだと感じています」と小林住職。
じっくりおもてなしをしたいから、宿坊で迎えられるのは一日一組。
もてなしを気に入ってもらい、南阿蘇を訪れる人が増えてくれれば地域も元気になっていく。
その思いをもてなしという形で受け取れば、阿蘇の恵みのファンにもなっていくはずです。